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『常位胎盤早期剥離』元女医が全ての妊婦さんに知って欲しい緊急疾患

rinrin
こんにちは、元女医ライターのrinrin(@Drrinrin1)です。

 

私は、第一子妊娠中に、『常位胎盤早期剥離』という病気にかかりました。

 

妊娠中に注意すべき病気は数多くありますが、その中でも特に注意しなければならないものの1つが、

この『常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)』です。

 

今回は、全ての妊婦さんに知っていただきたい緊急疾患として、『常位胎盤早期剥離』の症状や徴候について、自分自身の経過をふまえて述べていきます。

 

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妊婦さんやそのご家族の方はぜひお読みください。

 

 

常位胎盤早期剥離ってどんな病気?

常位胎盤早期剥離は、通称『早剥(そうはく)』とも呼ばれています。

 

『コウノドリ』という、ドラマ化もされた医療漫画で何度か出てきた病名なので、ご存知の方も多いのでは無いでしょうか。

 

 

ドラマ『コウノドリ』では、1stシーズンの第3話で、常位胎盤早期剥離の妊婦さんのお話が出てきます。

また、漫画版『コウノドリ』では、3巻で常位胎盤早期剥離の妊婦さんのお話が出てきます。

 

 

常位胎盤早期剥離とはどんな病気かと言うと、

通常、赤ちゃんがお母さんのおなかから出たあと(分娩終了後)に剥がれるはずの胎盤が、

まだお母さんのおなかに赤ちゃんがいるにも関わらず、剥がれてしまう状態のことです。

 

妊娠中、赤ちゃんは胎盤を介してお母さんから酸素や栄養の供給を受けています。

赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるにも関わらず胎盤が剥がれてしまうと、赤ちゃんは酸素や栄養の供給を受けることができなくなり、

低酸素から障害が起こったり、最悪の場合は死に至るケースもあります

 

また、妊娠後期には子宮への血流量は非常に多くなっており、1分間あたり1L程度にまで達すると言われています。

そのため、妊娠中に胎盤が剥がれると、短時間のうちに胎内で大量出血が起こってしまいます。

常位胎盤早期剥離は、赤ちゃんだけでなくお母さんも命の危険に晒される、非常に怖い病気なのです。

 

常位胎盤早期剥離の原因

常位胎盤早期剥離は、『コウノドリ』の中では、ドラマ版においても漫画版においても、『喫煙』と関連付けて展開されたお話だったため、

『喫煙している妊婦に起こりやすい疾患である』

という認識が広まってしまっています。

 

これは確かに真実ではあるのですが、実際に早期剥離を起こした妊婦さんが、必ずしも喫煙していたかというと、決してそうではありません

 

『喫煙』は、常位胎盤早期剥離の危険因子(それが無い人に比べて発症確率が上がる要因)の1つではあるのですが、

実際には、

『まったく危険因子が無かったのに常位胎盤早期剥離を起こしてしまった』

という症例も、かなりの数存在しているのです。

 

常位胎盤早期剥離の危険因子
  • 高血圧(妊娠高血圧症候群)
  • 感染
  • 切迫早産
  • 外傷(外的刺激)
  • 喫煙
  • 前回早剥(前回の妊娠で早期剥離を起こした既往がある)

 

上記は常位胎盤早期剥離の主な危険因子ですが、実際には上記に当てはまらない妊婦さんも、全くの原因不明で早期剥離を起こしてしまうことがあるのです。

常位胎盤早期剥離は、全ての妊婦さんにとって無関係な疾患ではなく、誰にいつ起こってもおかしくない病気なのです。

 

常位胎盤早期剥離の症状

常位胎盤早期剥離は、予測が極めて難しく、起こってしまうと、母体と胎児両方の生命の危機に直結する、『産科的緊急疾患』と言われる疾患です。

危険因子の無い人に起こるケースも多いため、予防は困難であり、起こってしまった場合は迅速に対応することが求められる疾患です。

このため、とにかくまずは妊婦さん自身が早急に症状に気づき、迅速に病院を受診することが必要となります。

 

常位胎盤早期剥離の症状
  • 下腹部の痛み
  • おなかの張り
  • 胎動の減少
  • 出血

 

注意しなければいけないのは、上記に書いてあるような症状が、必ずしも全て揃うわけではないという点です。

特に『出血』に関しては、目に見えて出血を来たすのは、早期剥離全体の中の約3割に過ぎません。

目に見える出血があれば、大抵の人は病院に行きますので、逆に出血が無いケースの方が受診が遅れ、重症化するケースが多いと言われています。

 

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目に見える出血が無くても、いつもと違うおなかの張りや痛みがある場合には、受診することをお勧めします。

 

常位胎盤早期剥離のおなかの張りには、以下のような特徴があります。

 

常位胎盤早期剥離の張りの特徴
  • 強いとも弱いとも言えない張りがずっと続く
  • 間欠期(痛みが休まる時間)が無い
  • 横になっても痛みが治まらない
  • 痛みがどんどん強くなる
  • おなかががちがちに硬くなっていく

 

妊娠後期ともなると、おなかの張りが起こるのは珍しいことではありません。

少し動きすぎたり、立っている時間が長いだけでも、張りが起こることはあります。

 

しかし、通常の張りであれば、2~3分かけてぎゅーっと収縮し、ピークを過ぎると同じくらいの時間をかけておさまり、

間欠期(痛みが休まる時間)をはさんで、またぎゅーっと収縮するものですが、

 

常位胎盤早期剥離の場合は、

どこがピークか分からない、強いとも弱いとも言えない張りが、

休む間もなく引っ切り無しに続きます

 

専門用語では『さざ波様子宮収縮』と言い、国家試験でもよく出題されるため、医学生でも、4年生以上ならほとんどの人が知っている波形です。

 

また、体を休めても痛みは治まることはなく、どんどん強くなっていきます。

 

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『いつもの張りと何かが違う』と思ったら、早めに病院を受診しましょう。

 

常位胎盤早期剥離の治療

常位胎盤早期剥離は、可能な限り速やかに妊娠を終了させることで対応します。

多くの場合は緊急帝王切開が行われ、赤ちゃんの状態が悪い場合はNICUなどで加療を行い、母体の出血がひどい場合は輸血を行うケースもあります。

妊娠を終了させて胎盤の娩出まで済むと、子宮が収縮して出血は止まることが多いですが、出血が止まらない場合、子宮摘出まで至るケースもあります。

 

常位胎盤早期剥離は、重症例の場合、母体の死亡率は10%胎児の死亡率は50%にまで上ると言われています。

極めて危険な緊急疾患なので、早期の発見が何より大切です。

 

常位胎盤早期剥離が疑われる場合は早めの受診を

常位胎盤早期剥離に限らずですが、妊娠中の緊急受診に対し、ためらいを感じてしまっている妊婦さんのお話をよく聞きます。

 

『これくらいなら我慢できる』

『次の健診の時まで我慢しよう』

『緊急受診して、もし何も無かったら恥ずかしい』

 

そんなためらいから、取り返しのつかない事態になってしまったケースも、本当に多いのです。

 

『腹痛』『異常な張り』『胎動の減少』は、どれか1つでもあれば、それは異常事態です。

 

もしも詳しく調べて何も無かったら、それはそれでいいのですから、

万が一の『何か』が起こってしまっている可能性を考えるなら、ためらわずに受診すべきです。

 

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ことさらに神経質になる必要はありませんが、妊娠中は少し心配性なくらいでちょうどいいのではないかと思います。

 

常位胎盤早期剥離の経過:私の体験談

こんなにも私が常位胎盤早期剥離の危険性について語るのは、やはり自分自身が経験した疾患であるからという理由も大きいです。

また、研修医の時にも、産科を回っている短い期間に何例か経験しました。

自分も含め、いずれも危険因子の無い人ばかりで、『この疾患は全ての妊婦さんが知っておくべき疾患である』と強く実感しました。

 

私の場合の経過を記しておきますので、

『こういった経過で常位胎盤早期剥離が起こった妊婦さんもいるのだ』

ということを知っていただければ幸いです。

 

ちなみに発症当時の私の妊娠週数は34週でしたが、それより前であっても後であっても、常位胎盤早期剥離を起こすことはあります。

臨月で胎盤剥離を起こした妊婦さんも、とても多いのです。

 

常位胎盤早期剥離が起こる前:極めて順調な妊娠経過

常位胎盤早期剥離が起こる前の妊娠経過は、極めて順調なものでした。

 

当時の私はまだ20代で、妊娠中の検査で異常を指摘されたことは一度もありませんでした。

高血圧や血糖の異常もなく、その他元々の基礎疾患もありません。

体重の増加などの注意を受けることもなく、病院からするとノーマークな妊婦さんだったと思います。

 

唯一懸念があったとすれば、その前の妊娠で死産を経験していたことでした。

前回の妊娠では、9ヶ月のときに原因不明の突然の子宮内胎児死亡を起こしたため、私自身は、少し神経質になっていました。

 

妊娠初期の頃から、自宅で聞ける胎児心音計を買い、健診以外の日でも赤ちゃんの心音を確かめていました。

 

 

しかし、自分自身の神経質さとは裏腹に、健診経過は極めて順調なものでした。

 

常位胎盤早期剥離が起こった当日:胎動の少なさを感じてNST検査を受ける

その日は、朝から少し胎動の少なさを感じていました。

いつものように胎児心音計で心音を確かめたところ、普通に聞こえたのですが、赤ちゃんが妙に大人しい感じがしました。

 

たまたまその日は健診日であったため、診察前に受付に相談したところ、NST検査を受けさせてもらえることになりました。

 

NST検査とは
『NST』とは『ノンストレステスト』の略。胎児心拍数モニタリングとも呼ばれ、陣痛などのストレスが無い状態で、母体の子宮収縮の状況や胎児の心拍数や動きなどの健康状態を調べる検査のこと。通常30~40分ほどかかります。

 

NST検査の結果、赤ちゃんの状態も子宮の状態も極めて良好とのことでした。

エコー(超音波)検査でも異常はなく、ホッと胸を撫で下ろして帰宅しました。

 

そのわずか2時間後に、おなかの痛みが始まったのです。

 

常位胎盤早期剥離の症状:徐々に強くなる腹痛と板状硬

その腹痛は、これまでの妊娠中で感じたことのないものでした。

最初はただの張りか前駆陣痛かと思ったのですが、ぎゅーっと絞れるような痛みが断続的に続き、短時間の間でどんどん強くなっていきました。

痛みのためか胎動も感じにくく、布団を敷いて横になり、胎動カウントを始めました。

 

胎動をかすかに感じてほっとしましたが、横になっても痛みがおさまることはありませんでした。

 

そうこうしているうちに、おなかががちがちに硬くなっていきました。

いつもの張りとは違う痛みと硬さに気味が悪くなり、胎児心音計を当てました。

 

すると、いつもはすぐにひろえるはずの心音が見つからず、少し前に感じたはずの胎動も、いつしか感じなくなっていたのです。

 

緊急受診と帝王切開

その時点で、あまりにおかしいと思い、私はタクシーを呼び病院へ行きました。

(その日夫は飲み会だったため、家に1人でいたのは不運なことでした。)

 

タクシーを呼んだのは、腹痛が始まってから30分後のことで、病院に着いたのはそれからさらに15分後くらいでした。

診察が行われ、NST検査でさざ波様子宮収縮を認め、エコーで胎盤の横に血腫があるのが分かりました。

その頃には、おなかの痛みはだいぶ強くなっていて、声も出せない状態でしたが、

 

『ああ、早剥だ…。緊急カイザーだ。赤ちゃんは生きて生まれてくれるのだろうか』

 

と思ったのは、はっきり覚えています。

基線細変動が消失した心拍モニターを見て、生きた心地がしませんでした。

(基線細変動の消失は、赤ちゃんの状態がものすごく悪くなっていることを意味します。)

 

すぐに緊急帝王切開が行われ、産声を上げることなく取り出された我が子はNICUへと運ばれました。

 

健診で『全く異常はありません』と言われて帰宅してから、わずか数時間後の出来事でした。

 

常位胎盤早期剥離の経過:出産後

出産後は無事に出血も止まり、私自身の経過は良好でしたが、何度かブログに書いている通り、赤ちゃんには障害が残りました。

 

 

胎盤剥離面積は30%程度と、重症度分類では『中等症』でしたが、

もっと早く、『軽症』のうちに私が気づくことができていたら、

もっと早く病院へ行っていたら、

我が子に障害は残らなかったのではないかと、今でも後悔しない日はありません。

 

常位胎盤早期剥離の怖いところ

とは言え、自分自身、あれ以上早いタイミングで病院を受診することはできなかったのではないかとも思います。

健診で『異常はない』と言われた数時間後のタイミングで、まさか早期剥離になるとは思いもしませんでした。

 

産後、主治医からは、

主治医
運がよかったですね

と言われました。

 

健診でノーマークで、外出血(目に見える形での出血)が無いタイプの早期剥離で、私のように進行が早かった場合、母子ともに助からないケースも多いそうです。

常位胎盤早期剥離の怖いところは、『いつどの妊婦さんに起こってもおかしくない、死ぬかもしれない病気』であるという点です。

実際に自分が該当してみて、それを改めて実感しました。

 

私自身の条件を書き出してみると、

 

  • 20代(比較的若い妊娠年齢)だった
  • 基礎疾患(持病)は何も無かった
  • 妊娠経過中に異常を指摘されたことは一度もなかった
  • 当日の健診でも異常は無いと言われた

 

という状態であり、このことからも、いかに常位胎盤早期剥離が予測不可能で、どの妊婦さんにいつ起こってもおかしくない病気であるかということが分かります。

また、起こってしまった場合、胎児はもちろんのこと、母体にも命に関わる可能性が高く、極めて深刻な病気なのです。

 

常位胎盤早期剥離に備えてできること

これまで記したとおり、常位胎盤早期剥離は、いつどの妊婦さんに起こってもおかしくない事態です。

禁煙や血圧のコントロールなど、分かっている危険因子を減らすためにできることはありますが、全てを予測して予防することは不可能です。

 

不運にも、その予測不可能なタイプの常位胎盤早期剥離を経験した者として言えるのは、

この疾患に関しては、実際に起こってしまったときに、いかに早く気づき、受診できるかが鍵であるということです。

 

私が、とても間の悪いタイミングであったにも関わらず、受診をすぐに決意できたのは、胎児心音計のおかげでした。

 

 

心拍が拾えないくらい赤ちゃんの状態が悪いということに気づけたため、

健診で『何も異常がない』と言われた直後という、受診しにくいタイミングであったにも関わらず、受診を決意することができました。

 

また、何か異常を感じたとき、

 

『受診して何も無かったら恥ずかしい…』

『これくらいで受診したら先生に怒られるかもしれない…』

 

などと思わずに、『何かがおかしい』と感じたら、すぐに受診してほしいと、全ての妊婦さんに伝えたいです。

 

まとめ

常位胎盤早期剥離について述べました。

知識として知ってはいても、自分が体験すると、なかなか冷静な判断と早急な受診を行うのは難しい疾患でした。

 

妊娠中の方、またそのご家族には、この病気について心の片隅にでも留めておいてほしいです。

常位胎盤早期剥離は、いつどの妊婦さんに起こってもおかしくない、赤ちゃんとお母さんの命に関わる病気です。

 

もしも何かあったとき、

 

『もっと早く受診していれば、赤ちゃんは助かったかもしれない』

『もっと早く受診していれば、赤ちゃんに障害は残らなかったかもしれない』

 

と、お母さんの一生の心の傷になる可能性の高い疾患でもあります。

 

また、お母さん自身の命が失われてしまった症例や、命は助かっても、子宮を失うことになってしまった症例もたくさんあり、悲劇的な結果につながることの多い疾患でもあります。

 

rinrin
多くの方がこの疾患について知っていただき、悲しい思いをするご家族が少しでも減りますよう願っています。