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医学部不正入試問題はなぜ起こったのか

rinrin
こんにちは、元女医ライターのrinrin(@Drrinrin1)です。

今年は、夏の東京医科大不正入試問題に始まり、多くの医大の不正入試問題が明らかになった年でした。

 

医学部不正入試問題とは

医学部受験にあたり、女子生徒や多浪生(浪人の回数が多い生徒)を不当に採点し、本来合格基準に達していた生徒を不合格とした問題。

東京医科大始め、多くの医大で同様の不当採点が行われていたことが、現在問題となっている。

 

 

つい先日も、順天堂大学医学部が、不正入試が行われていたことを明らかにされ、謝罪会見を行ったばかりです。

順天堂大学は、不正入試が行われた背景として、以下の2点を述べています。

 

女子に不利な配点をした理由
  • 女子は精神的に早熟であり、受験時は男子と比べてコミュニケーション能力が高い傾向にあるため、その差を解消するために補正を行った。
  • 女子寮の収容人数が少なかったため、女子の合格者数を調整する必要があった。

 

第三者の私たちから見ると、あまりにも理解に苦しむ、合理性に乏しい理由でした。

この理由は、おそらく本当の理由ではありません。

 

医学部不正入試問題が起こった、根本の原因は何だったのでしょうか。

 

rinrin
今回は、実際に現場に身を置いていた元女医として、この、『医学部不正入試問題』について語ります。

 

医学部不正入試問題の概要

現段階(2018年12月13日現在)で不正入試が行われていたことを公表している大学は、以下の大学になります。

 

不正入試を公表した大学
  • 東京医科大学
  • 順天堂大学
  • 昭和大学
  • 神戸大学
  • 岩手医科大学
  • 金沢医科大学
  • 福岡大学
  • 北里大学

 

私立大学のみならず、神戸大学のような国立大学でも不正入試が行われていたことに、驚いた方も多いのではないかと思います。

一口に不正入試問題と言っても、その内容は様々でした。

 

  • 女子生徒を低く採点(男子を高く採点)する
  • 多浪生を低く採点(現役生を高く採点)する
  • 同大学出身者の子供を高く採点する
  • 同県(あるいは近県)出身者を高く採点する

 

主に上記のような形で、不正入試による加点(あるいは減点)が行われていました。

もっとも優遇されているのは、『現役生』かつ『男子』かつ、『地元出身者』であることが分かります。

なぜ、これらの大学は、このような生徒を欲したのでしょうか。

 

医学部不正入試問題の本当の原因

大学が、なぜ『現役生』で『男子』で『地元出身者』である生徒を求めたのか。

 

この本当の理由は、

『自分たちがより便利に長く使える労働力を確保するため』

という、その一言に尽きます。

 

  • 現役生は多浪生に比べ、医師として活動できる期間が長い
  • 女子は妊娠出産育児で第一線から離脱しやすいが、男子はその心配が不要
  • 地元出身者であれば、地元の大学病院に残ってくれる可能性が高い

 

大学病院を併設している『医学部』という学部の特性上、入学試験の段階で、より自分たちにとって便利な人材を取り入れるという考えが、根底にあるのです。

 

ちなみに、私自身、受験の際の面接で、面接官から尋ねられました。

 

面接官
卒業後は、当大学附属の大学病院に残る予定ですか?

 

と。

 

この質問が、どのように採点されたかは分かりませんが、面接官の心象を考えると、『残るつもりはありません』などと答える受験生はいないのではないでしょうか。

 

医学部不正入試問題の根底に潜む問題

『より便利に長く使える労働力の確保』

こう書くと、この問題がただ単に、女性への差別に基づくものではないことが分かると思います。

 

この言葉は裏を返すと、

『若い男はいくらでも働かせてよい』という現場の風潮を表しているのです。

ある意味で、ひどい男性差別でもあるのです。

 

医師の過酷な労働環境

医師の労働環境、とりわけ大学病院の医局に所属している医師の労働環境は苛酷です。

 

医師の過剰労働
  • 早朝からのカンファレンス
  • 週に1~2回の当直
  • 当直翌日もフルタイムで勤務
  • 担当患者の急変のたびに呼び出し
  • 数日以上病院から帰れないこともざら
  • 『待機』という名の無報酬労働
  • 時に10時間以上に渡る手術
  • アルバイトしないと生計を立てられないほどの給与
  • 大学院の研究の手伝い
  • 学会発表の準備
  • 医局の都合で突然言い渡される地方への異動

 

過酷な労働の結果、バーンアウトし、自身がうつになってしまったり、体を壊してしまったりする医師も、とても多いのです。

 

医師の転職と離職

医師はその生涯において、平均4回転職すると言われています。

下のような医師転職サイトには、大学病院より勤務体系に余裕があり、報酬もよい求人がたくさん紹介されています。

 

 

転職の理由は様々ですが、過酷な勤務に対価が見合わない病院が敬遠されていることは、その大きな理由の1つとなっています。

医師は私生活よりも患者のことを優先するのを求められることが多い職業ですが、医師もまた人間であり、それぞれの人生があります。

仕事に忙殺され、疲れきっている中で、自分の人生を見つめなおしたときに、『医局に縛られない生き方』に魅力を感じる医師は、男女問わず多いのです。

 

医局の人手不足は女性医師のせいだけではない

医局の人手(労働力)が不足している大元の原因は、『妊娠出産による女性医師の離職』ではないのです。

本当の原因は、『医師の過酷な労働環境』にあります。

 

上述したような条件の労働が、子育て中の女医に不可能であると言うのはたしかにその通りなのですが、

『ではそんな勤務が、男性医師には可能なのか?』

というと、決してそうではありません。

 

男性医師も、自分の体に鞭打ちながら、自分の家庭と人生を犠牲にしながら、過酷な勤務に従事せざるを得ない状況が、もうずいぶん長い間続いているのです。

その結果、女性医師だけではなく、男性医師も離職(医局からの離脱)が進み、大学病院の労働力不足は、年々深刻化していっています。

 

『医学部不正入試』は医局の医師不足を改善するための的外れな策

人手不足を改善するために、『より便利に、より長く使える人材を育成しよう』と実施されたのが、この、『医学部不正入試』、すなわち『入試の段階での労働力確保策』です。

あまり報道はされていませんが、不正入試を行っている大学だけでなく、きちんと募集要項に明記して、『地域枠』(地元の生徒から優先して合格させる枠のこと)を設けている大学もあります。

これら全てが、『より便利に、より長く使える労働力の確保』のための策であるというのが、各大学の本音ではないかと思います。

 

ただ、この策で、将来的な労働力の確保に繋げるのは難しいと、現場にいた者としては感じます。

というよりも、この策を講じて10年以上経つのに、医局の医師離れが進んでいるという現状から、『この策は的外れである』と、気づいて欲しいものです。

 

医局の医師不足は、勤務体系を見直すことでしか改善しません。

大学病院にいた頃感じていたのは、中堅クラスの医師の多くが、自分の『辞め時』をうかがっているということです。

ある医師
沈み行く船にいつまでも乗っていたくない

と言っていた先輩医師もいました。

 

医局を離れる(見捨てる)医師が増え、人材不足が進み、内部にいる人の負担が増すばかりの医局は、まさに沈み行く船でした。

『いつ辞めようか』『次は誰が辞めるのか』と、みんなが探り合っている状態でした。

 

辞める人は女性医師ばかりかというと決してそうではなく、専門医取得後にあっさり辞めるのは、むしろ男性医師の方が多かったくらいです。

産休育休や当直免除などで、少し負担を軽くできる女性医師に比べ、男性医師は過酷な勤務からの逃げ場が無く、結果、自分の人生を守るために転職していくのです。

 

まとめ

医学部不正入試問題の起こった本当の理由について述べました。

『本当の理由』と銘打ってはいますが、大学側は女性の人権に配慮し、本当の理由を述べることはありません。

 

しかし、本当の理由が『労働力の確保』であることは疑いようの無いことだと思います。

そして、それが現場にいた身からすると、この上なく的外れな方向性の努力であることも……。

 

男性医師も女性医師も離職せずにすむ労働環境を整えることが、最優先事項です。

『女性には出産育児があるから、この環境での仕事は無理』と断じるのではなく、

そんな勤務は本来男性医師にも無理であると、早く気づいて欲しいものです。

 

限界を迎えた人から離脱していっている今の状況を変えないことには、入試の段階でいくら補正したところで無意味です。

 

rinrin
好き勝手語った割りに、言いたいことの半分も言えていないのですが、とりあえずこの記事はこれで終わります。